平和はいかに失われたか−大戦前の米中日関係もう一つの選択肢−

How The Peace was Lost

[原著] ジョン・アントワープ・マクマリー

[編著] アーサー・ウォルドロン

[監訳] 北岡 伸一

[訳]  衣川 宏

出版社:原書房

発売日:1997年

 

(John Van Antwerp MacMurray, 1881年10月6日 – 1960年)

 

マクマリーは1881年に生まれ1960年に没したアメリカの外交官。

1935年に書いたこのメモランダムで、ワシントン会議以来の極東情勢とアメリカの政策を振り返り、なぜ、いかにしてワシントン体制は崩壊したのかを分析し、戦争が近づいていると警告し、アメリカのとるべき政策を論じた。

 

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書評

戦前の東アジアでの軍事的緊張を高め、さらに武力衝突を起こしたのは、日本軍の責任であるという評価が日本を含め、戦後左派系を中心に普遍化しています。

中華民国政府の駐中公使であったマクマリーは、アジアでの国際協力のために行われたワシントン会議の諸条約(九カ国条約)を無視した行動をとる中華民国と国益のためにそれに迎合したアメリカ政府が日本の武力行使を招いたと断じています。

今般の日本の保守系論陣の論調およびトランプ政権の主支持団体である共和党保守系の論調に非常に近いものとなっています。

 

日本は幕末に国内での国際法を無視した事件が頻発したせいもあり、アメリカを始めとした各国と不平等条約を結ばざるを得ませんでした。それ以降(現在に至るまで)、国際法、条約を遵守し第一次大戦時にイギリスに平等条約を認めさせるまでになっています。

一方、支那人は以前から現在に至るまで、「法」というものは「自分に都合のいいものは守る」「自分に都合のいいものは守らせる」「自分に都合の悪いものは守らない」が本音で、相手より国力が弱い時点では遵守するものの力をつければ力あるものに従うべきという、支那古来の考え方を国際社会に持ち出しています。

 

中華民国がワシントン会議(九カ国条約)を無視し、米国が日本ほかの条約加盟国の言い分に耳を傾けず中華民国に迎合し続けた結果、日本の国益が損なわれました。

 

条約を結んだ相手が条約を守らず、一方のみが条約を遵守すれば、条約を守ったほうが国益を損なうというのは常識です。

それが現在の中華人民共和国とアメリカの関係にもピッタリあてはまります。

 

戦前の日本はアメリカトランプ政権と同じように国益保全のため中華民国に対抗しましたが、当の条約を無視した行為を行う中国を差し置いて日本のみが非難の対象となりました。(もちろん正統な合法的な手段を持って抗議交渉しておりますが、何ひとつ対応されません。)

自らは為替を操作し、国内資産の移動を許さないと行った保護政策をしまくっているのにもかかわらず、アメリカの対抗関税に対して「保護主義をやめるべき」と自らを棚に上げ唱える面の皮が厚い中国にいたっては今も80年前も何ら変わっていません。

また、東支鉄道、北満洲、外蒙古を支配し、日本にとっても中国にとっても脅威となっているソヴィエト社会主義連邦はワシントン会議に参加していませんし、そのような条約にお構いなしに浸透しています。

 

トランプアメリカ政権は、昔の日本の焼き直しを現在行っているわけです。

 

当時のアメリカが中国贔屓の政策を取り続けることで、国際協調路線をとっていた幣原喜重郎外相の日本での立場が弱まり、強硬外交派の勢力が強くなりました。

強いて言えば、現在のドイツやフランスがかつてのアメリカの立ち位置にあたるでしょうか。EUだけでなく国内がちょっとまずいことになっているようですが。
戦前の日本は世界の覇権を持っておらず、基軸通貨での金融を支配していないところが違っています。

 

アメリカが、ウィークジャパンポリシーに基づいた外交政策で、満洲における日本の権益、支那における権益を得るために機会均等、領土保全という建前のもとに、戦前の中国に媚びた結果、戦後アジアは平和どころか紛争が頻発、複数の国家が消滅し、巨大な共産主義国家を誕生させてしまうという痛恨の失敗を犯しました。(民主党系や主流派はいざしらず共和党保守系は反省しているようです。)

アメリカ前大統領のオバマ政権が終わるまで騙され続けていたという話なので、本当に始末におえません。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」オットー・フォン・ビスマルクの言葉が誤って伝わったといわれていますが、まさに言い得て妙な事例でしょう。

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